おとうさんへと
小学校一年の夏休みを迎えたある日、母と兄と私は、東京のおじさんが運転するトラックで、東京へと引っ越したのです。私たちの新しい住まいは、新築のアパートでした。母は私と兄に向かい、「今日からもう、東京のおじさんじゃないからね。おまえたちのお父さんになるんだから」そう言われました。すると自然、あの女の子は私たちの妹という事になる。しかし、私は何も深くは考えませんでした。
そんなある朝の事です。私はミニカーを床に転がしながら一人で遊んでいました。するとおじさんがやってきて、「クルマ、好きなのかい?」と聞いてきたのです。私は即座に、「うん、すき。おじさんは?」と逆に訊ねてみました。おじさんは少々苦い顔を見せ、台所にいる母のところへ行きました。しばらくすると母が来て、「おじさんじゃないでしょ、お父さんでしょ」と怖い顔をするのです。私は何も言えなくなりました。しまし、すんなりと「おとうさん」とは、言えなかったのですね。そう気安く呼べるようになるには、さらに時間がかかりました。■